登山

山に登り始めて早6年目になる。そこそこ多くの山に登ってきたと自分では思ってるが、その経験によると山で良い景色に出会えるのは二三回に一度らしい。景色の良さなんてお天道様の気分次第で脆くも崩れ去ってしまうし、そうなったら山行の楽しみは下山後の温泉くらいのものだ。雨の中何も見えないとわかって踏みに行った頂は結構あって、そいつらはリベンジ山行リストに突っ込まれていつか消費される日を待っている。

しかし今回の山行で見た景色は文句なしに絶景と呼べるものだった。双六岳で二滑りして満足して幕営地へ帰る途中で、夕暮れにはまだ早いかという時分だ。双六小屋から弓折岳へ向かう稜線は雪に覆われてて、その上をひたすら歩いていた。空は昨日の雨が嘘のように晴れ渡っていて、風も穏やかだった。左手には槍ヶ岳から大キレットを通って穂高に至る稜線が空に映えていて、右手には今朝がた滑ってきた双六岳のカールにシュプールが残っている。そんな景色だった。

またあのような景色を見たいと思う。だからまた山に登る、というわけでもないのだが。その翌日はずっと雨に降られていて絶望的にしんどかったのだ。良くも悪くも、という感じの山行だった。